病院では他にやることがありません。今食べたのに、次はどんなメニューかしらなんて思ったり、考えたりするのが、ベッドの中での仕事なのです。
入院してはじめて強く感じましたことは、どんなに料理の中身が良くても、元気が出ないということなのです。おいしい食事をする、元気に食事をいただくっていうことは、中身もさることながら、入れる器の力がいかに大きいかということです。
器の力は何かといいますと、まずは素材です。できることならば、石や土でできている陶磁器とか、漆器など自然の素材の持っている力です。
もう一つは絵付けです。器に描かれている絵がどれだけ料理を活かしてくれていたか、それを強く感じました。
そして、私はだんだん食が細ってしまいまして、病院の先生には申し訳なかったのですが、自分の家からお茶碗とお椀を持ってまいりました。食事になると病院の器から移して料理を頂いていたのです。病院の方々から見ましたら、きっとイヤな患者なのですけど、おいしくいただけるのです。
同室の皆さまに別に食器を持って参りました。「恐れ入りますが、私テーブルコーディネートの仕事をしておりましてモニターになっていただけませんでしょうか?」とお願いしたのです。絵付けのあるご飯茶碗と木製のお味噌汁椀をみなさんに使っていただいて、1週間統計を取らせていただいたのです。
そうしましたら、「いただけないわ」と言ってらした方達が「いただけるわよ」とおっしゃるようになりました。昨日は半膳。今日は一膳、目に見えて召し上がれるようになったのですね。料理も大事ですけど、私たちは普段は気がつかないのですが、器の力をいただいていたことを強く感じたのです。
ところが病院の先生に伺いましたところ、「そうですか?」。看護婦さんに聞いてみましても「そうかもしれませんね?」とおっしゃいます。考えてみたらお医者さんも看護婦さんも当然ですが、皆さん元気な人ですからあまり感じないのですね。食べるということはやはりエネルギーを補給するわけですから、食べて元気が無くなってはしょうがありません。
料理の中身だけではなくて器やお箸からパワーをもらうことが、とても大事であることを実感いたしました。
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